ばぁ〜バッジ

後藤真希のモンハンガチプレイがハンパない(なんのことやら)ということで、
ニコニコ動画でそれをみてみました。

そこでの後藤さんは、ゲームそのものも上手なのですが、
驚くべきところは、プレイしながらネットの向こうのプレイヤーたちとチャットをし、
そのタイピングがとても速い、というところで、
ニコニコ動画の画面上でも「廃人いたwww」などと賞賛されていました。

私はその光景をみて、「自分の知っているゲームの達人と違う」
とおもいました。
これまでの「ゲームの達人」というのは、ゲームのプレイスキルがある人のことで、
いかに早く、正確にプレイするかが問われていました。
しかし、後藤さんのプレイスタイルは、ゲームだけでなく、チャットにより、
いかに他者とコミュニケーションをとるか、というところにまで及んでいたのです。

つまり、「プレイスキル」という意味を追求するだけではなく
「チャット」というゲーム遂行には意味のない行為をいかにするか、
というところにも意味が見出されている、というところが重要なことです。



話変わって、先日
からくわ放送局の小野寺さんから、こんなバッジをいただきました。

ばぁ〜

と書かれています。
これを知らない方は、何のことだろう、と訝るかもしれません。
ご存知の方は、ニヤリとすることでしょう、きっと。

というのも、これはケセン地方の方言のひとつで、
バッジの下のところにも書いてありますが、
喜怒哀楽全てを表現することができる魔法のことばなのです。
若い世代のひとはあまり使いませんが
私の祖母くらいの世代の人は(出身地にもよりますが)、頻繁にこれを用います。
山浦玄嗣ケセン語の世界』には、以下のように書かれています。


ケセン人が大好きな情辞(感動詞)に、Ba ba ba! というのがある。
ケセン人は事あるごとに「ババババ!」を濫発するのでケセン周辺ではたいそう有名である。
これは実に多様な場面で用いられる。
 Ba, n'de a igu zo.
 Ba, igi asi ka?
 Bento a yo?
 Ba, ba musibi kosirair de og'i dar gara.
 Ba, n'de a mod'te igu bai.
 Ba ba ba, ki tiker de ig' assai.

  婆さん、では行くぞ。
  バ、行きますか?
  弁当は、よ?
  ババ、お結びを作っておいたから。
  バ、では持って行こう。
  バババ、気をつけてお行きなさい。

久しぶりに道で知人に会ったとする。
 Ba, ba ba ba ba ba ba ba !
 Ba ba ba ba, ba ba ba ba ba ba ba ba! Nan' to mazi hisasiburi dar godo!
 Honi sa yo, ba ba ba ba ba ba ba ba ba!

 「バ、バババババババ!」
 「バァバァバァバァ、ババババババババ!
  何とまず久しぶりだこと!」
 「本当にねえ、バババババババババ!」

山浦玄嗣ケセン語の世界』明治書院(2007)pp176-177より引用
(引用者注:アルファベットの発音記号をうまく表記できませんでした、
すみません)


気仙沼から仙台に行くバスに乗ると、
「ババババ」の応酬をよく聞くことができます。
震災にまつわる悲しい話をしているときでも
「バァ、バァ、バァ、バァ……」
と同情の意を表現されると、暖かくて深い何かに包まれているような気分になります。

こういった包括的な意味をもつ表現には、
真に意図していることが分からなくなる、
というデメリットもあるかもしれません。
しかし、実際にその場にいると、大抵その「バ」が何を意味するのか分かるのです。
こういう事例をみるにつけ、こういった方言というのは、
相互認証的なコミュニケーションに特化した発明といっても過言ではないかもしれません。


以上、ふたつの話題を持ち出して、何を言いたかったのかというと、
言葉を使って、今、私たちがしたいことは「あなたの言いたいこと、分かります」
という相互認証の作業なのかもしれません、ということです。


言葉に特定の意味を求めがちな自分への反省の意味も込めて。
小野寺さん、ばぁ〜バッジ、ありがとうございます。